中央大学 斎藤正武 准教授
『プログラミング教育と論理的思考力の関係』

今回のインタビューは中央大学の斎藤准教授です。斎藤先生は理工学部出身で、プログラミング教育についても国内外で様々な活動をしていらしゃいます。また、子どものプログラミング教育に関連する研究に取り組まれていますので、今回はその研究内容についてお話しを伺いました。

本紙編集長竹下(以下、竹下):斎藤先生、本日はよろしくお願いします。斎藤先生はプログラミング教育に関連する研究を行なわれているというご縁で、墨田区のジュニアプログラミングクラブQUESTの活動にもご参加頂いていますが、先ずは、斎藤先生の研究内容についてお話しを伺えますでしょうか?

斎藤:はい。今、世界的に初等教育段階からのプログラミング教育が注目されています。これはプログラミング言語を扱えるようになることを目的としたものではなく、プログラミングを通じて、発想力や問題解決力・論理的思考力など、総合的な考える力を向上させることを目的としたものです。ただ、これらは評価が非常に難しい項目でもあります。プログラミング教育の必要性は社会で認知されつつあるのですが、実際にプログラミング教育を受けることでこれらの力がどれぐらい伸びるのか、その効果を数値の様な目に見える形で示したデータはまだありません。そこで私は、プログラミング教育が及ぼす効果として挙げられている様々な要素の中で、特に言及されることが多い『論理的思考力』に着目し、プログラミング教育によってどれぐらいその力が伸びるのか、定量的に測定することでその効果を証明しようという研究を行っています。

竹下:実は、小中学生のお子さんをお持ちの保護者の方から、プログラミング教育について「なんとなく良さそうだけど、これが何に繋がるのかよく分からない」というお声を頂くこともあります。そんな時は、今斎藤先生が仰られた様に『論理的思考力』の向上などについてご説明させて頂くのですが、学校の教科でテストの点数が上がるといった様な、結果が数値で示されているものと異なり、保護者の方にとっては教育の効果としてイマイチ実感し難いものなのかも知れません。斎藤先生は、これをどのようにして測定されているのでしょうか?

斎藤:独自のテストを実施しています。これは、私のゼミの学生達が中心となり問題を作成しているもので、例えば、一定の法則やパターンに沿って並べられた複数の図形や記号・文章などから、その規則性を読み取り回答を導き出すといった、論理的な思考力を必要とする問題で構成されています。これを3分間のあいだで解けるだけ解いてもらうという形で実施しています。これまでは、プログラミングのワークショップを行う前後にテストを実施し、ワークショップ前の結果とワークショップ後の結果を比較・検証するということを行ってきましたが、いずれも単発のワークショップであった為、そこに有意性のある差は見受けられませんでした。やはり論理的思考力などといったものは、1回のワークショップで急に身につくものではなく、継続的な思考習慣やトレーニングの中で徐々に培われていくものなので、私たちの研究も、継続的にプログラミング活動を行っている児童を対象に中長期的に観測していく必要があると考えていました。そこで、継続的に子ども達がプログラミングに触れられる場所として活動をしているQUESTさんにご協力頂き、私たちのテストを実施させて頂いています。

(※QUESTでのテスト実施およびその結果は研究用途にのみ利用していますので、予め参加者の承諾のもと、テスト結果と個人情報が結びつかない形で実施しています)

竹下:大変面白く意義のある研究だと思っていますので、私たちも斎藤先生の取り組みには注目させて頂いています。去年からQUESTで斎藤ゼミのテストを実施していますが、これまでの研究成果はいかがですか?

斎藤:継続的なプログラミング活動を通じて、全体的に思考能力が伸びてきているというテスト結果が出ています。そして、論理的思考能力が元々備わっている子とそうでない子の2者を比較した場合、後者の伸び率が非常に高いという傾向があります。つまり全体的な底上げをしつつ、2者の差は段々と縮まってきています。

竹下:論理的思考能力も、継続的な思考習慣やトレーニングによって、伸ばしていくことができるということですね。ここでポイントとなるのは「継続的な思考習慣」ということだと思いますが、Scratchのようなビジュアルプログラミングツールは、ゲームや物語を作るなど、子ども達が楽しみながら、しかも初学者でも取り組みやすいツールなので、まさにこの「継続的な思考習慣」となる活動に繋がりやすいのではないかと思っています。

斎藤:そうですね。私自身は学生時代にプログラミングに出会いました。その後プログラミングを教える立場になり、「プログラミングはもっと早くから学び始めた方が良いのではないか?」と感じていましたが、Scratchが出てきた時に「これだ!」と思いました。Scratchのようなビジュアルプログラミングツールであれば、子ども達がプログラム言語の構文を覚えたり、キーボードからの入力を行うことなどに時間を取られず、もっと創造的なこと、考えることに注力することができます。

竹下:そこが、論理的思考力を始めとする『考える力』を養うツールとして、ビジュアルプログラミングが注目されている理由ですね。ところで、根本的な質問になりますが、なぜ論理的思考力を身につける必要があるのでしょうか?

斎藤:やはり、これから社会で求められる重要なスキルなのだと思います。例えば、ある課題に向けて何かを達成するために、何をどういう風にどういう順番で実行したら良いのか、細かいタスクを洗い出し優先順位を決定する。これも論理的な思考力が必要とされます。そしてこれは、社会に出て仕事をする上で直面する特別な場面ではありません。正解が1つではない問題に対して様々な解決ルートを考えて最適解を導き出す。その様な思考の構成力を持った人材が求められているのだと思います。2020年に大学の入試改革が実施される予定ですが、これまでのセンター試験に代わって導入される「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」では、従来の知識や技能だけでなく、より論理的思考力が問われるものになるようです。

竹下:社会で実践力のある人材の育成を、教育課程においても重視していくということですね。この論理的思考力は、受験においてどのように評価するのでしょうか?

斎藤:言語を通じた記述式の出題という方法が検討されているようです。国語の論述や数学の証明問題などのように、「何故そうなるのか?」ということを説明させる過程で、内容に論理的矛盾や破綻がないか、主張の一貫性は保たれているのか、といった思考の構成力が評価されるようですね。

竹下:今後ますます『論理的思考力』の重要性と、それらを養うツールとしての『プログラミング教育』への注目が高まりそうですね。本日はどうもありがとうございました。

斎藤:ありがとうございました。

インタビュアー:竹下 仁(たけしたまさし)
実施日時・場所:2017年5月21日 co-lab墨田亀沢にて

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斎藤正武(さいとうまさたけ)
中央大学商学部准教授。青山学院大学大学院理工学研究科にて工学博士号を取得後、ボストン大学の客員研究員などを経て現職へ。専門分野は教育工学・システム工学・医用システム。教育や医療改革にむけたICT活用の研究を行っている。